AIを入れたいというご相談で、最初の質問はたいてい「どのツールがいいですか」です。私はいつも、その前に一度立ち止まってくださいとお伝えしています。
ツールを選ぶ前に、いまの仕事を並べて書き出します
道具から選ぶと、たいてい途中で止まります。何に困っているかが言葉になっていないまま、道具だけ先に決めているからです。
中小企業基盤整備機構の調査では、「適切なベンダーや製品を選定する情報が十分にある」に当てはまらないと答えた企業が79.8%でした。私はこれを、情報が足りないというより、自社の仕事が一覧になっていないから比べようがない状態だと考えています。
そこで先にやるのが業務の棚卸しです。いまの仕事を一度全部並べて、紙に書き出す作業のことです。製造業の方は在庫の棚卸しを思い浮かべると思いますが、ここで数えるのは物ではなく仕事です。
書き出すのは4列だけです
列を増やすほど、途中で止まりやすくなります。業務、工数、頻度、リスクの4列で十分です。
以下は書き方の見本です。数字は自社のものに置き換えてください。
| 業務 | 工数 | 頻度 | 間違えると何が起きるか |
|---|---|---|---|
| 請求書を作って送る | 1回90分 | 月1回 | 出し忘れると入金が遅れます |
| 問い合わせメールを読んで振り分ける | 1日20分 | 毎日 | 返信が漏れます |
| 経費を会計ソフトに入力する | 1回2時間 | 月1回 | 決算の数字が狂います |
| 会議の議事録を作る | 1回40分 | 週1回 | 言った言わないになります |
| 入金を確認して消し込む | 1回30分 | 週1回 | 未回収に気づかないままになります |
書き方には決まりがあります。
- 業務の欄は「〜する」と動作で書きます。「経理」と部署名で書くと、中身が見えなくなります。
- 工数の欄は1回あたり何分かを書きます。計測は不要で、担当者の体感で構いません。
- 頻度の欄は毎日、週1回、月1回、年1回のどれかにします。
- 最後の列は「間違えたら何が起きるか」を一文で書きます。ここが後で効いてきます。
行数は会社によって変わります。完璧な一覧を作ろうとすると、そこで企画が止まります。8割の出来で一度止めてください。
AIに任せる仕事と、人がやる仕事を線引きします
書き出したら、工数と頻度を掛けて、年間で時間を食っている順に並べ替えます。そのうえで3つに仕分けます。
| 仕分け | どういう仕事か | 例 |
|---|---|---|
| AIに任せる | 手順が決まっていて、合っているかを機械で判定できます | 転記、集計、点検、抜けの検知 |
| AIが下書きして人が決める | 判断は要るが、材料は毎回同じです | 返信文、議事録、請求内容の確認 |
| 人がやる | 相手との関係やお金の責任がかかります | 値決め、謝罪、採用、送信の判断 |
線引きの基準は1つだけです。間違えたときに、誰がどれだけ困るかです。お金が動く、社外に出る、取り消せない。この3つのどれかに当たるものは、必ず人が最後に決める形にします。
ここは誤解されやすいので、はっきり書きます。私の会社では、出す前の自動の点検を仕組みに組み込んでいます。それでも、送信や発行のボタンを押すのは人です。人が誰も見ないまま外に出る仕組みは作りません。自動の点検を入れるのは、人が見る前に間違いを減らすためです。
最初の1本は、この3つが揃うものを選びます
仕分けが終わったら、いきなり全部に手を付けず、業務を1つだけ選びます。
- 毎日または毎週ある仕事です。月1回の仕事だと、効果が出たかどうかを確かめるまでに時間がかかります。
- 人が変わっても手順が同じ仕事です。担当者の勘に頼っている仕事は、後回しにします。
- お金か時間に直接効く仕事です。入金、請求、未回収、返信漏れのあたりが当たりやすいです。
逆に、最初に選ばないほうがよいものもあります。年1回しかない仕事、社長にしか判断できない仕事、相手の会社の都合で毎回やり方が変わる仕事です。どれも作れないわけではありませんが、1本目には向きません。
私の会社でやったらこうなりました
自分の会社で先にやりました。以下は実際に出た数字です。
- 請求漏れを64,000円分見つけました。検知した当日に請求書を出しました。
- 1件あたり44,000円の過大計上を、請求書が出る前に直しました。22万円のプランを66万円のプランとして計算していました。
- お金の数字が狂う原因が4つありました。事故が起きる前に塞ぎ、同じことが起きないように、金額が合っているかを機械が毎回確かめる点検を組み込みました。
- 請求作業は、月1回の「そろそろ請求だ」という思い出しが0回になりました。いまは確認して発行ボタンを押すだけです。
- 受信25通のうち、人が読むべきものは実質3通でした。拾えていなかった判断材料が2件ありました。
- 返信漏れは、10日気づかなかったものが30分以内に上がるようになりました。点検は朝8時から夜8時まで、30分おきに動いています。
- 7か月分の記帳を仕訳172本で終えました。未仕訳だった明細678件を仕分けました。
- 会計ソフトの全177仕訳と台帳を突き合わせました。会計ソフト側の誤りはゼロで、台帳側に誤り5件と計上漏れ18行、62,738円分が見つかりました。
- いまは毎週1枚のレポートが出ます。読み終わるまで5分です。
数字を並べましたが、いちばん効いたのは金額ではありません。「思い出す」という工程が消えたことです。棚卸しをするまで、私はそれを仕事だと思っていませんでした。
書き出しが止まったときの戻し方
やってみると、だいたい同じところで止まります。
- 手が止まって何も出てこないときは、直近1週間のカレンダーと、メールの送信箱を上から見てください。自分が実際にやったことしか、そこには残っていません。
- 全部が重要に見えるときは、工数と頻度を掛けた数字で並べ替えてください。数字で並べ直すと、先に手を付けるべき行が上に来ます。
- 人によって書き方がばらばらになるときは、先に3行だけ見本を書いて配ってください。
棚卸しの後に何が残るか
この作業が終わると、手元に4つが残ります。
- いまの仕事の一覧です。
- どの仕事をAIに任せるかを一目で見る表です。
- 時間とお金がどれだけ浮くかの試算です。
- どの順番で手を付けるかの計画です。
大事なのは、これがツールに依存しない資料だという点です。使うAIが変わっても、担当者が辞めても、この4つは会社に残ります。逆に言えば、ここを作らずにツールだけ導入すると、担当者が辞めた時点で何も残りません。
まとめ
やることは4つです。仕事を4列で書き出します。時間を食っている順に並べます。3つに仕分けます。毎日あって手順が同じで、お金か時間に効く1本を選びます。ここまでは社内だけでできますし、外に頼む前にやっておくと、後の見積もりも判断もしやすくなります。
もし書き出しの途中で止まったり、仕分けの線引きに迷ったりしたときは、私にご相談ください。業務の棚卸しから、動くものを1つ作るところまでを商品にしています。月額でのご支援は月10万円から、最低3か月です。4か月目からは月単位でやめられますし、違約金はいただきません。まずは自分でやってみて、詰まったところだけ持ってきていただくのがいちばん安く済みます。

